十分な住居のないフィリピンの首都マニラ。多くの移民者たちは市営墓地という一般的とは言えない場所を選ぶことを余儀なくされています。中でも最大となる市営北部墓地は、村のような様相を呈しはじめています。
墓地には缶詰、ラーメン、キャンディ、ろうそくなどを販売する雑貨店や食事や飲み物を提供するレストランまで現れています。
霊廟は死者のむくろを安置するだけでなく、家族の生活の場となっています。 鬼籍に入る人はもちろん減少することはなく、職を求めて外部からマニラへやってくる労働者も増えているため、墓場のスペース不足は日々その深刻度を増しています。
マリオ ポーメールズさん(52歳)は、数年前に北部墓地へ引っ越してきました。墓石の石工兼墓守という仕事柄、職住近接を求めた結果だといいます。彼は墓標をひとつ作るごとに10ドル(約800円)を受け取るので、場合によっては週に150ドル(約1万2000円)稼ぐこともあるといいます。これは、マニラの通貨に換算すると相当な金額となります。
54ヘクタールもあるこの墓地は、19世紀からあるフィリピン最古の墓地。1万人もの人々が市営の北部墓地で生活しているといわれています。
住民たちは墓地の外壁にかけられた、その場しのぎのはしごを登り下りして大通りへ出ます。そこからジープニーに乗って外出するといいます。実際、こういった生活スタイルは拡大しており、マニラ地下鉄圏内にある別の墓場もまた、他に決まった寝場所を見つけられない人々の住処となっています。
この墓地で暮らす人々は、墓を利用して生計を立てています。若者は50セント(約40円)で棺を運ぶ仕事をし、成人男性や女性は墓掃除、墓修理、墓管理などの仕事を行っています。また、子供たちはプラスチックや金属などのスクラップを回収してお金を稼ぎます。
何年もの間、生きた人間を墓地から追い出すためさまざまな試みがなされているが、どれも功を奏していません。
いったんは転居した家族の多くがまた墓地に舞い戻ってきてしまうといいます。ある者は、転居先は職場や学校、買い物の場所に遠すぎると言い、またある者は、転居先には水や電気の供給が無いと言います。
多くのものにとって墓場は低家賃の転居先よりも、多くの保護を与えてくれるものと認識されています。墓場の住人はまた、賄賂を支払うと市当局が運営する電線から電気をひくことができます。一部の起業家精神溢れる住民は、消火器からとった水を墓場の住人用へ売りつけてさえいるといいます。
また物理的な問題だけでなく心情的な理由でここに住む者もいます。 数年前に夫を亡くし、子供もなく、ほとんど親戚もないある高齢の婦人は、夫が眠るこの墓場に安住の場を見つけたといいます。
しかし墓場での生活には暗い面もある。
マニラ市営北部墓地内の非公式の村は、薬物取引などの不法行為のメッカとなり、往々にして犯罪の温床となっています。
住民がこれらの不法行為から身を守るすべは無いと言えます。また、彼らは当局が再び突然強制退去に乗り出してくるのではという恐れと日々戦いながら生きています。
長年にわたり多くの人が暮らすうちに、現在では教師や美容師、服飾関係者など多種多様な職業の人間が暮らすようになっています。また、テレビやカラオケセットなどの遊興施設もお金を払えば利用できるようになっており、もはや完全な村の状態となっています。
生まれてから死ぬまで墓地で暮らしていくという人々。今後、彼らがどのようにこの墓地で暮らしていくのか、または追い出されるのか、現時点では誰にも分からないといえます。
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