以前ご紹介した2030年までに起こる技術革新と失われる仕事でも取り上げた「3Dプリンター技術」は、3次元造形機によって立体的な構造物を作り出す立体プリンターのことであり、すでに製造業を中心に建築・医療・教育・先端研究など幅広い分野で普及し始めています。
今回は、これまでのモノづくりを根底から変化させる可能性がある3Dプリンター技術が、いったいどのようにして大きな影響を及ぼすかを具体的に9つの方法を提示してご紹介します。
1.医療
最近、83歳の女性に3Dプリンターで作った下あごの移植手術を世界で初めて試み、見事成功しました。現在、この女性は噛むことや話すことができるまでに回復しているといいます。3Dプリンターは1つ1つの製品を思い通りの形状に作り上げることができるため、パーソナライズした製品が求められる医療分野で大きな役割を果たすでしょう。
2.研究・開発
フィラデルフィアにあるドレクセル大学の研究者は、恐竜の化石をスキャンし3Dプリンターで小型化した化石標本を作り研究に役立てています。またそれらを実際に動かし、恐竜の動き方を研究しています。3Dプリンターは、対象物の大きさを自在に変化させて再現できるため、あらゆる場面で役立ち、研究開発を促します。
3.製品のプロトタイプ制作
製品を本格的に工場のラインで製造する前に、素早く低コストでプロトタイプを作成しテストを行うことができます。3Dプリンターは、製造の時間とコストを削減することができます。
4.歴史的価値のある物の保存
3Dプリンターは、美術館や博物館にある歴史的価値のある芸術品などのレプリカを作ることができます。これらのレプリカは非常に洗練されているため、オリジナルの代わりに展示することができ、照明などによる風化からオリジナル作品を守ることができます。
5.建設業
建築業者の多くは、イノベーションを高め、コストを削減し、建築スピードを速めるために3Dプリンターの採用を進めています。建築業での3Dプリンターの将来的な使い方は、建築資材や建築物を3Dプリンターで製造するということが考えられます。また現在すでに、3Dプリンターで作られた模型を使って客へのプレゼンテーションを行う建設会社もあるようです。
6.製造業
3Dプリンターの使い方で一番注目されているのが製造業です。3Dプリンターを使えば大規模な設備がなくても製品が作れるため、低コストでオーダーメイドで多様な製品を作ることができます。また、これらの作用によって中小企業でも製造業に参入できるようになります。
これまでは同じ形状の製品をたくさん作ることで製品コストを下げていました(規模の経済)が、3Dプリンターが普及すれば大規模生産のメリットは失われます。また、製造される製品は、全てがカスタマイズ・パーソナライズされたものとなります。
これまで主流だった画一的な大量生産システムは、在庫を抱えるコストやリスク、工場のライン生産が不要になることでなくなるでしょう。(そういう意味ではトヨタのジャストインタイム生産システムは先駆的ですね。)
7.食品加工
3Dプリンターによる工業製品作成では、樹脂などを材料にしますが、食べられるものを材料にすれば食品加工にも応用できます。すでにイギリス・エクスター大学は、チョコレートの3Dプリンターが作成されています。
8.自動車
3Dプリンター自動車「Urbee」は、3Dプリンターによって製造されているため、車体にボルトや溶接が行われておらず耐久性が高く30年は使用可能といいます。全てのパーツではないにしろ、そのいくつは3Dプリンターによってこれまでに比べて低コスト高品質で素早く作成されます。
9.衣服・装飾品・アクセサリー
3Dプリンターを使えば、ドラマでよくある「指輪のサイズが違う」ということもなくなります。また、オリジナリティーが重視される衣服や装飾品、アクセサリーは、3Dプリンターと親和性が高い分野だといえます。3Dプリンターは、リビングルームから薬指まで、自分だけのオリジナル製品を提供してくれます。他人と同じ服を着て、恥をかくこともなくなります。
3Dプリンター技術は、まだまだ実用性に乏しい部分も多いですが、その将来性から多くの企業や研究機関で研究開発が進められています。それほど遠くない未来の製造工場には、ベルトコンベアーと油まみれのマッチョな肉体労働者ではなく、3Dプリンターとそれを操作するプログラマーがいるのかもしれません。