メスに交尾を断られ欲求不満になったオスのハエは、悲しみを紛らわすため酒に逃げるということが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームの研究によって明らかとなりました。このハエと人間の意外な共通点を明らかにする実験結果は、15日、科学誌サイエンスに発表されました。ハエも人間と同様に、イヤになることもあるんですね。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校で解剖学・神経学を研究しているウルリケ・へーベルライン(Ulrike Heberlein)教授の率いるチームは、オスのショウジョウバエを交尾経験のあるメスおよび未経験のメスと一緒に容器に入れ、行動を観察するという実験を行いました。
すると、未経験のメスはオスの求愛を受け入れすぐに交尾をしたが、交尾後のメスは一定時間、オスに興味を示しませんでした。これは交尾の際にオスが精子と一緒に送り込む性ペプチドが原因だといいます。一方、交尾を拒絶されたオスは、たとえ未経験のメスと一緒にされても求愛行動をしなくなりました。
そこで、交尾を拒否されたオスをメスと隔離し、15%のアルコールを含む餌と通常の餌の2種類を設置した容器に入れたところ、これらのオスはアルコール入りの餌を浴びるように摂取し始めました。
メスに拒絶されたオスの脳内では、神経伝達物質「ニューロペプチドF」が減少していることが確認されました。一方、メスと交尾をして性的に満たされたオスの脳内の「ニューロペプチドF」レベルは高かったといいます。研究チームは、「ニューロペプチドF」の脳内レベルによって、アルコールへの衝動が引き起こされていると見ています。
論文を主執筆したアメリカ、バージニア州ハワード・ヒューズ医療研究所のGalit Shohat-Ophir氏によると、ニューロペプチドFは「脳内の報酬のレベルを示し、報酬を求める行動へと変換するスイッチの役割をしている」といいます。メスに拒絶されたオスは、減少した「ニューロペプチドF」の代わりに、アルコール摂取によって報酬欲求を満たすのだといいます。
この仕組みは、交尾の有無にかかわらず人工的に「ニューロペプチドF」を増減させたハエでも確認できました。
人間の脳にも類似の「ニューロペプチドY」という神経伝達物質が存在します。このため研究チームでは、人間の脳がアルコール依存や薬物依存に陥るメカニズムを解明するのに、今回の発見が役立つのではないかと期待しています。UCSFの研究チームによれば、現在「ニューロペプチドY」に不安障害などの気分障害や肥満を緩和する働きがあるかを調べる臨床試験が行われているといいます。
フラれると求愛行動をやめてしまい酒びたりになってしまうなんて、なかなか面白い実験結果ですね。人間の行動の多くには、脳内物質が深く関わっているようです。
かなり恣意的な実験