オランダのベンチャー企業が、2023年までに火星にスペースコロニーを建設する火星移住計画プロジェクト「マーズワン・プロジェクト」が、その一部始終をリアリティー番組として放送されることが明らかとなりました。しかも、火星に送り込まれる宇宙飛行士たちは地球に帰ってくることのできない”片道切符”だといいます。
この「マーズワン・プロジェクト」を発表したオランダのベンチャー企業は、エネルギー関連会社の元経営者で研究者のBas Landsdorp氏とドイツの企業が共同で設立したもの。2023年以降、人間を定期的に送り込み、目標では2033年には20人が火星上に居住させるといいます。また、火星上にさまざまな設備を整えて11年後の2023年には、4人の宇宙飛行士を火星に送り込むことを目指しており、来年にも志願者の募集を開始します。
専門家たちには懐疑的な「マーズワン・プロジェクト」ですが、1999年のノーベル物理学賞を受賞したオランダのヘーラルト・トホーフト氏が協力しています。ヘーラルト・トホーフト氏は「最初の反応は『これは絶対無理だろう』だった。けれどプロジェクトを精査してみると、実現可能だと思うようになった」と言います。
プロジェクト発案者は、風力発電所で働いた経験を持つメカニカルエンジニアのバス・ランスドルプ氏(35歳)。物理学者や工業デザイナー、広報スペシャリストとチームを組み、各国の宇宙機関がしのぎを削る有人火星到達競争に挑みます。
試算したプロジェクト予算は60億ドル(約4700億円)と、NASA史上最大のミッション・キュリオシティーの予算25億ドル(約約2000億円)の2倍以上に上ります。ランスドルプ氏はオランダ発祥の史上初のリアリティー番組「ビッグ・ブラザー」の仕掛け人の1人、パウル・レーマー氏との出会いから、この莫大な資金を集めるのにリアリティー番組を活用するという着想を得ました。
計画では、宇宙飛行士の選抜と訓練から、何か月にも及ぶ火星への旅、そして火星での飛行士たちの生活まで、全てをテレビ放送します。
「この冒険をメディアスペクタクルとすることで、資金は調達できる」とランスドルプ氏。マーズ・ワン計画に多くの不確定要素があることは認めつつ「火星征服こそ、人類史上最も重要な一歩になる」と、プロジェクトへの思いを語りました。
宇宙船や火星での居住施設の建造は、「最も適任な」企業にアウトソーシングします。飛行士の選抜と訓練は2013年に開始し、2016~22年には宇宙ステーションモジュールや食料、ロボット車両などを火星に向けて送り出す予定だといいます。
第1陣の飛行士たち(男女4人)は、2023年4月に火星に着陸。10年後にはおよそ20人が「コロニー」を作り、科学実験や生命の痕跡の探査などを行う計画。
火星の環境は平均気温マイナス55度、大気の大半を二酸化炭素が占める苛酷なものですが、飛行士らの生活に欠かせない酸素は火星地下の水分から製造するといいます。
これまで火星への有人宇宙飛行を試みた者はいません。火星までの航路で浴びる放射線の被ばく量に人間が耐えられるかどうかにも疑問があります。また、1960年から始まった火星探査計画で無事火星に到達できた宇宙船は半分ほど(その大半はNASAのプロジェクト)しかなく、宇宙船を火星から地球に帰還させる方法もまだ存在しません。
そのため「マーズワン・プロジェクト」に参加する飛行士たちは、火星で人生を終えることになります。その死さえ、テレビ番組の題材となるようです。この点について倫理的、法的な問題があると指摘する声も出ています。そもそも「マーズワン・プロジェクト」は実現を目指してはおらず、資金集めが目的なのではないかとの批判もあります。
これらの疑問について、フランス・ストラスブールにある国際宇宙大学のクリス・ウェルチ教授は、火星への有人着陸には前向きだが「1か所に4人を着陸させ、そこで生活させるのはかなり困難だ」と指摘します。何より、火星地下の水分から酸素を取り出すことは「理論上は可能」だが、実現できるかどうかは全く分からないといいます。
「技術面から見て、成功の確率は50%だろう。ばくちのようなものだ」とウェルチ教授は述べ、テレビを通じて60億ドルもの資金を集めるのも難しいだろうとの見方を示しました。
欧州宇宙機関の火星探査計画「ExoMars」に携わる専門家のジョージ・バゴ氏は、火星には乱気流があることから、マーズ・ワン計画のように同じ場所に2つの宇宙船を着陸させるのは事実上不可能だと分析します。「仮に、居住施設を建造するロボット車両が(飛行士たちの乗る宇宙船の)100キロ、いや20キロ先に着陸したとしよう。それだけでも非常に厳しい状況になる」と言います。
バゴ氏はさらに、太陽の爆発で宇宙に放出されるイオン化物質で宇宙飛行士が「やけど」をしたり、宇宙船が損傷する恐れもあると語りました。
一方、地元オランダの宇宙関連企業で作るオランダ宇宙協会は、全面的に「マーズワン・プロジェクト」を後押しする構え。ヘラルト・ブラウ会長は同計画の公式ウェブサイトで、「メディア産業と航空宇宙産業をまたぐ先見の明のあるアイデア」だとランスドルプ氏を絶賛。「この2つを合体させたというだけで、マーズ・ワン計画には注目する価値がある」と太鼓判を押しています。
賛否両論あり、夢物語とされている「マーズワン・プロジェクト」ですが、上手くいけば資金を調達して火星に人を送り込むことはできそうです。一方で、資金調達法は実際のところ「痛快!ビッグダディ」と同じ方式のようです。果たして前代未聞の壮大なプロジェクトは行われるのでしょうか。